このコラムは「宇宙工学と臨床工学~JAXAこうのとりプロジェクトマネジャ経験を踏まえて~」の続きです。
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3.4宇宙開発での安全要求
今回は、宇宙開発での安全の考え方を、国際宇宙ステーションを例に取り紹介します。
そもそも国際宇宙ステーションとは、上空約400kmに浮かぶ宇宙実験施設。
アメリカ、日本をはじめ世界15か国が協力して計画を進め、利用している宇宙開発の拠点です。
内部では特殊な環境下だからこそできる実験や研究等、様々な活動を行いながら、宇宙飛行士が生活しています。
当然、医療現場の環境保全や患者の安全の担保と同様に、宇宙分野でもシステム保全や宇宙飛行士の健康維持は最重要の課題です。
宇宙開発では、まずはどのような状況に対して安全管理を行うかを考えます。
下の図は、リスク発生頻度と発生時の影響を整理したものです(英語ではLikelihood とSeverityといいます)。
黄色と赤の領域が、安全コントロールが必要な領域としています。
つまり、信頼性が低い発生頻度より、事の重大性に重きを置いています。

ハザード(Hazard)という言葉が出てきましたが、これは「事故をもたらす要因が健在または潜在する状態」を意味します。
まずは、このハザードの抽出、つまり「どのような事故やその原因が想定されるか整理すること」から始めます。
宇宙ステーションにおける、考えうる最悪のトップ事象(事故)は、人員とシステムの喪失です。
これに対応して、いわゆる一般的な日常生活や宇宙活動のハザード(generic hazard)のリストや、故障の木解析(FTA: Fault tree analysis)、影響評価解析(FMEA:Failure mode and effects analysis)の手法を利用して「網羅的」に抽出します。
以下の図に、一例を示します。ハザードとして30近くが識別されています。

さて、当然、これらのハザードは除去しなければなりません。
つまり、原因を取り除くのですが、その考え方については次回のコラムにて解説していきます。
小鑓 幸雄
滋慶医療科学大学 教授
工学博士/元JAXA(宇宙航空研究開発機構)こうのとりプロジェクトマネージャ
