このコラムは「宇宙工学と臨床工学~JAXAこうのとりプロジェクトマネジャ経験を踏まえて~」の続きです。
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3.システムズエンジニアリング
前回はプロジェクトマネジメントの話をしました。
今回から、プロジェクトを遂行するために用いられるシステムズエンジニアリングの手法を順次簡単に紹介します。
この手法は米国で始まり、アポロ計画、スペースシャトル計画、宇宙ステーション計画などに適用されました。
敗戦により、宇宙開発に出遅れた日本は、この手法を必死に勉強し、日本のロケット、人工衛星の開発に適用しました。
この手法は手続きを取捨選択することで、巨大プロジェクトだけでなく、医療機器開発、学園祭での新企画や、途絶えていた昔の行事の復興計画、家庭でのリフォームなど、様々な場で応用できます。
ここでは宇宙開発での新規の物作り、言い換えれば、物の開発プロジェクトを参考に進めます。
3.1ミッション要求
まず何を求めているのかをしっかり考えることが、初めの一歩です。
アポロ計画なら「人類を月に降り立たせ、地球に無事に帰還させる。併せて月の科学的探査をおこなう」です。
スペースシャトル計画なら「人を宇宙に運び、着陸して帰還する。機体は再利用できること。併せて将来の宇宙開発、宇宙探査の基盤を築くこと」です。
大まかですが、全員が同じ理解をしていれば、OKです。
検討の中では、当然コストの見積もりが必要ですが、アポロ計画は例外です。
米国の国家の威信をかけたプロジェクトなので、巨額の予算が使われました。
合計は当時の日本の国家予算に匹敵しました。なので、アポロ計画のコスト設定は他のプロジェクトには全く参考になりません。
3.2ミッションの定義
次に、ミッション要求を具体化して作業を前に進めます。
スペースシャトル計画なら「最低20トンの搭載量、最低7名が搭乗できること。単独飛行の場合は最低2週間の軌道上滞在ができ、その間に生命科学を含む宇宙科学実験ができること。さらに将来の宇宙ステーションの建設ための輸送や、モジュールの組み立てに利用できること」です。
ここまでくると、大まかな開発コストが算定できます。
その額は、NASAの予算の枠内(非軍事予算)でなければなりませんでした。
定義が決まるまでには、何回かのイタレーション(※)が必要です。
※イタレーション(Iteration):「繰り返し」「反復」といった同じプロセスを繰り返し実行すること
次回は、ミッションの定義からフローダウンされる、システム要求や、システムの定義をお話ししましょう。
小鑓 幸雄
滋慶医療科学大学 教授
工学博士/元JAXA(宇宙航空研究開発機構)こうのとりプロジェクトマネージャ