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災害時に活躍する「DMAT」になるには?任務や適性を解説

2025.2.4

コラム

災害現場などに駆けつけて人命を救う災害派遣医療チーム「DMAT」。人の生死に関わる緊迫した状況の中、懸命に医療を施す姿を漫画やドラマなどで目にして、「自分も、命を救うチームの一員になりたい!」と使命感にかられた人もいるのではないでしょうか。しかし、その活動内容はまだあまり知られていません。今回は、DMATのミッションや、どうすればDMATの隊員になれるのか、どんな人が向いているのかを解説します。


DMATとは?定義と誕生の背景

DMAT(ディーマット)は、大規模災害や多くの傷病者が発生した事故現場などで医療行為を行う災害派遣医療チームのことで、「Disaster Medical Assistance Team」の頭文字をとってDMATと呼ばれています。出動要請があると、消防や警察、自衛隊などと連携しながら医療活動を行います。

DMAT誕生の背景

1995年1月17日、戦後最大級の都市直下型地震「阪神・淡路大震災」が発生し、6434人もの死者をもたらしました。当時は、災害発生時に提供する医療体制が整っておらず、災害医療を担う病院もありませんでした。この時、平常時の救急医療レベルの医療が提供されていれば、救えた命があったと考えられています。
ここで初めて、「災害現場で医療を行える体制を整えなければいけない」と認識され、2004年に初のDMATである「東京DMAT」が、2005年に「日本DMAT」が発足しました。
現在は、災害時にDMATを派遣できる「DMAT指定医療機関」や「災害拠点病院」が各都道府県に設けられ、最低1チームのDMATの配置が義務づけられています。
なお、「DMAT指定医療機関」と「災害拠点病院」の定義は次の通りです。

DMAT指定医療機関・DMATを保有し、派遣に協力できる体制を整えている。
災害拠点病院・DMATを保有し、派遣できる体制を整えている。
・広範搬送の対応が可能
・災害時に医療を提供する地域の拠点として国に指定されている
・DMAT活動拠点本部として使用される

日本DMATと都道府県DMAT

2022年時点では全2,040チームがDMAT指定医療機関に登録されています[1]。DMATには、日本DMATと都道府県DMATの2種類があります。前述の「東京DMAT」は、都道府県DMATの一つ。両者の活動内容自体に大きな違いはありませんが、活動範囲や管轄が異なります。

管轄活動範囲
日本DMAT厚生労働省全国の大規模災害
都道府県DMAT都道府県局地的な災害や大規模な交通事故などの都市型災害

[1] 厚生労働省令和4年度第2回医療政策研修会第2回地域医療構想アドバイザー会議資料


DMATの任務

DMATは、被災地の都道府県などから要請を受けて、被災現場や災害拠点病院、避難所などに派遣されます。初動のチームが現地に到着するまでの時間は、基本的に48時間以内(移動時間を除く)とされ、「災害急性期」と呼ばれる約72時間までの間で活動を行います。これは、人命救助を行う上で、72時間を過ぎると生存率が極端に低下してしまうからです。
72時間を過ぎると基本的にDMATは引き上げ、その後は医療救護班へと引き継がれます。

基本的な任務

【救命・搬送・トリアージ】

負傷した患者に応急治療を施し、病院に搬送します。また、たくさんの負傷者が発生した現場では、どの負傷者を優先的に治療するか、どの病院に搬送するかを判断する「トリアージ」も任務の一つ。重症度によって赤・黄・緑・黒に色分けした識別票を用いて、患者の緊急度を示します。

【情報収集・伝達】

「EIMS」と呼ばれる広域災害・救急医療情報システムを使い、災害拠点病院をはじめとした医療機関や消防、行政などとのネットワークを通じて医療情報を収集します。EIMSを使うと、被災状況の確認や医療機関が患者を受け入れられるかどうかの照会ができます。災害急性期に必要な医療を受けられるかどうかで患者の生存率が大きく変わると言われているため、情報の収集や伝達はとても重要な任務の一つです。

【後方支援】

災害が発生した直後の被災地は混乱し、救援する人や使えるモノは限られます。そうした現地の貴重な“資源”を消費しないように、DMATには救助活動をできる限り自力で行う「自己完結性」が求められます。そのため、活動に必要な通信手段や移動手段、医薬品や食料、宿泊場所の手配といった後方支援もチームの隊員が行います。任務中は、基本的に宿泊施設に宿泊して活動を行いますが、病院や施設などの一室に寝泊まりすることもあります。

・任務の現場は被災地域だけではない

災害医療と聞くと被災した現場で患者を救う場面を想像しますが、DMATが活躍する場所は被災現場だけではありません。病院や臨時の応急救護所、時にはヘリコプター内でも任務を遂行しています。

災害拠点病院被災地域内の医療機関や災害拠点病院で応急処置やトリアージなどの支援活動を行います。
SCUSCU(Staging Care Unit:広域搬送拠点臨時医療施設)とは、ドクターヘリで患者を搬送するための拠点や、搬送前後の医療拠点として空港や公園などに設置される臨時医療施設のこと。このSCUでも応急処置やトリアージを行います。
ドクターヘリ機内ドクターヘリや災害医療調査ヘリに搭乗し、患者を安全に搬送したり、情報収集を行ったりします。また、DMAT隊員の現場への移動にヘリコプターが使われることもあります。
本部DMATの活動拠点本部は、都道府県の指揮によって、災害拠点病院内などの適切な場所に設置されます。ここでは、被災情報の収集や必要な機材の調達、消防・自衛隊・医師会など関連機関との連携や調整を行います。

・出動時以外は何をしている?

出動要請がない平常時は、災害拠点病院などに勤務し、医師や看護師など病院職員としての一般的な業務を行なっています。ただし、知識や技術を維持・向上するための研修や訓練は定期的に実施されています。例えば、「大規模地震医療活動訓練」などの災害発生時を想定した訓練を受け、いつなんどき災害が発生したとしても迅速に行動できるよう、日頃から備えています

・DMATのメンバー構成

原則として医師1名と看護師2名、業務調整員1名の計4名を1チームとして構成されます。業務調整員になれるのは、医療機関に勤務している医師・看護師以外の職種に就いている人。つまり、臨床工学技士や救急救命士、保健師など医療資格を有する人だけでなく、事務職員などさまざまな職種がなることができます。
それぞれの役割は、次の通りです。

医師救急医療の提供、隊員への指示
看護師医師の診療補助、患者のメンタルケア、隊員の体調管理
業務調整員本部活動時の連絡調整や情報収集、通信手段や医薬品などの確保、隊員の食事や宿泊の手配などの後方支援

DMATが活躍した過去の任務

これまで、日本各地で発生した地震などの自然災害のほか、2005年のJR福知山線脱線事故や2008年の洞爺湖サミットなどにもDMATが派遣されました。また、記憶に新しい事例では、2024年1月1日の能登半島地震にもDMATが出動しています。そのうち、代表的な2つの事例をご紹介します。

・東日本大震災[2]

2011年3月11日に発生した東日本大震災では、14:46に地震が発生してわずか4分後の14:50には災害医療センター内に対策本部が設置され、15:10にはDMATに待機要請が出されました[2]。その後、16:00に出された宮城県からの派遣要請を皮切りに岩手県、福島県、茨城県に約380チーム、約1800名の隊員が派遣されました。地震と津波、そして原発事故の影響により、福島を中心に病院の機能が失われたため、被災地から域外の病院へと大勢の入院患者を搬送する必要があり、主なDMATチームの活動期間は3月22日までの12日間に及びました[3]

[2] 厚生労働省DMAT事務局資料「東日本大震災でのDMATの活動」
[3] 厚生労働省DMAT事務局資料「東日本大震災におけるDMATの活動と 今後の周産期医療との連携について 」

・ダイヤモンド・プリンセス号[4]

2020年、横浜に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号で新型コロナウイルスの感染が拡大しました。2月5日にPCR陽性者が多数いることが判明し、8日にDMATが活動を開始。当初は1日60名を超える発熱患者が発生する事態でしたが、合計472名の隊員が派遣され、乗客乗員への救命医療の提供や感染拡大防止などに努めました。災害医療での経験やノウハウが感染症拡大にも活かされた初めての事例です。

[4] 日本災害医学会雑誌「ダイヤモンド・プリンセス号におけるDMAT活動」


DMAT隊員になるには?

DMAT隊員になるために必要な資格はありませんが、誰でもなれるというわけではありません。厚生労働省などが実施する「DMAT隊員養成研修」を受ける必要があります。ただし、この研修を受講するにも一定の要件を満たすことが求められます。

・DMAT隊員養成研修を受けるために必要なこと

前提として、「DMAT指定医療機関」や「災害拠点病院」に所属し、「災害・感染症医療業務従事者」として登録されていることが必須です。特に重要なポイントは、所属の医療機関から選出され、都道府県を通して厚生労働省に推薦される必要があること。所属の医療機関の中で選出されるためには、救急外来などの救急医療に携わった経験があると有利と言われています。

・DMAT隊員養成研修とは

DAMT隊員としての知識・技能を習得するための4日間の養成研修で、DMATの意義や災害時の指揮命令、安全確保に関する講義や実技指導、想定訓練などが行われます。原則として、医師・看護師・業務調整員の1チーム4名で参加します。研修後は筆記試験と実技試験が行われ、合格するとDMAT隊員として登録され、登録証が交付されます。

・DMAT技能維持研修とは

DMAT隊員資格は5年ごとに更新する仕組みになっており、更新するためにはこの期間内にDMAT技能維持研修を2回以上受講することが求められます。任務に必要な知識や技術の維持・向上のため、また、新たに経験した災害から得られた知見をDMAT活動に反映させるため、過去のDMATの活動の振り返りや情報収集システムの操作実習、病院支援といった研修を受けます。


DMAT隊員に向いているのはどんな人?

被災地では医療体制が整っていない中で医療活動を行う必要があるため、急性期医療の知識や経験などが求められます。加えて、次のような適性があれば現場で活躍できるでしょう。

・スピーディーで柔軟な判断力

人員や医療物資が限られた中で一人でも多くの命を救うために、冷静に判断し効率的に動くことが求められます。医師や看護師の場合は、救命救急や救急外来の経験が活かされるでしょう。

・関係機関との連携・調整力

活動期間中は、複数のDMATチームや病院、消防、警察、行政機関など多くの組織と関わりながら柔軟に動くことが大切です。通信、連絡、報告といった連携・調整のスキルは欠かせません。後方支援を行う業務調整員には特に重要なスキルです。

・迅速に動ける機動力

待機要請があればただちに待機し、派遣要請が出された後は48時間以内に現地に到着する必要があるため、突然の要請にも即座に動ける機動力が欠かせません。

過酷な災害現場で働くことになるため、知識や技術力を向上し続ける努力とスキルが求められることはもちろんですが、何より、「人を救いたい」という強い気持ちがなければつとまる仕事ではありません。逆に言えば、その強い気持ちがあれば努力によってスキルを身につけることができ、DMAT隊員になれる可能性が高いと言えます。


DMATへの道は臨床工学技士にも開かれている

地震や豪雨など災害の多い日本では、特にDMATが果たす役割は大きいと言えます。発足から約20年間、DMATは過去の経験を活かしながら課題を克服し続け、活動の精度はますます向上しています。今後も災害や事故の現場で多くの人の命を救い続けることは間違いありません。
本学が養成する臨床工学技士にもまた、DMAT隊員として活躍する道が開かれています。