
「臨床工学技士」という職業は、急速に進化する医療技術とともに需要が高まってきました。しかしネット上で検索すると、「いらない」という関連ワードが出てくることもあります。そんな情報を見て、将来に不安を感じている方もいるのではないでしょうか。
実際のところ、臨床工学技士には将来性があるのでしょうか。データや医療業界の現状、未来の予想をもとに、臨床工学技士という職業の可能性について考えてみましょう。
臨床工学技士として働く人は増加中
現在、臨床工学技士の約9割が、病院や診療所などの医療機関で働いています[1]。その人数は、2020年時点のデータでは、全国で30,409人[2]。対して医師・歯科医師は約40万人、看護師は約132万人[3]いるので、他の医療従事者と比較すると圧倒的に少ないことが分かります。
しかし、そもそも臨床工学技士の資格制度が成立したのが1988年で、その歴史はまだ40年ほど。他の医療従事者と比較すると歴史が新しいため少なくて当然です。それでも、資格取得者は今日まで毎年着実に増えています。
一方で、厚生労働省「職業情報提供サイト」によると、有効求人倍率は1.6倍と高水準。つまり、求人に対して求職者が少なく、需要はあるのに人手が足りていない状況です。
[1] 公益社団法人 日本臨床工学技士学会の「臨床工学技士の業務実態報告2023」
[2] 令和4年版厚生労働白書 P8
[3] 令和6年版厚生労働白書 資料編 保健医療 P44
臨床工学技士を必要としている医療現場とは
・法律では配置人数が定められていない
臨床工学技士は、医師や看護師などとは異なり、「病院に何人配置しなければいけない」と法律で定められているわけではありません。そのため、臨床工学技士がいない病院もたくさんあります。また、臨床工学技士の仕事の一つである「医療機器の保守・点検」は、医療機器メーカーに依頼することもできます。こうした背景から、「臨床工学技士は必要とされていないのでは?」と感じる人もいるかもしれません。
・必要とされている場所や役割
臨床工学技士は実際、どのような場所で活躍しているのでしょうか。
臨床工学技士の主な業務は、人工透析装置や人工心肺、ペースメーカーなどの高度な生命維持装置の操作や管理を行うことです。特に人工透析業務は、総合病院や透析クリニックで必要とされている重要業務。このような治療を行わない病院や診療所なら臨床工学技士が在籍する必要性は高くありませんが、高度先端医療機器を保有する大きな病院や専門性の高いクリニックでは、とても重要な役割を果たしているのです。また、臨床工学技士には医師や看護師では対応できない医療機器のトラブルを解決する力もあります。病院内に在籍していれば、医療機器メーカーに依頼するより迅速かつ柔軟に対応できるため、他の医療従事者にとっても心強い存在です。
医療業界のトレンドで変わる臨床工学技士の役割
臨床工学技士という仕事には将来性もあるのでしょうか。医療業界のトレンドをふまえて考えてみましょう。
・医師や看護師の仕事が臨床工学技士へシフト
2021年に「臨床工学技士法」が改正され、臨床工学技士の業務内容が拡大されました。例えば、手術室や集中治療室で、生命維持管理装置を用いて行う治療での輸液ポンプの接続や、内視鏡用ビデオカメラの操作、血液透析業務での患者様への穿刺(注射針を刺す医療行為)など、これまで医師や看護師が担ってきた業務を、臨床工学技士が代わりに行うケースが増えています。これは、医師や看護師の働き方改革を進めるため。臨床工学技士は今後、人手不足の医療業界を支える人材になると期待されているのです。
・AIやIoTの進化で求められる役割
AIやIoTの進化に伴って、さまざまな業種で業務の自動化や省力化が進んでいます。これは医療業界でも同じ。手術支援ロボットや画像認識AIが搭載された医療機器がどんどん開発され、今後は診断や治療がより正確かつスピーディーに行えるようになっていくと予想されています。それなら、臨床工学技士は必要なくなるのでは?と思うかもしれませんが、むしろ逆。医療機器のプロフェッショナルだからこそ、AIを搭載した医療機器を的確に操作できる人材として、現場で頼りにされるようになるでしょう。同時に、これらを安全に扱うための管理やメンテナンスのスキルがますます求められると思われます。さらにこれからは、医師の治療計画に沿った上で、患者様の状態を自らの目で把握し、AIの提案が正しいかどうかを判断する力も重要になっていくと考えられます。
・データサイエンスを活用した新たな可能性も
データを収集・分析して有益な情報を見いだし、課題を解決するデータサイエンス。データ解析や統計学などを学んだ臨床工学技士であれば、医療機器からデータを収集し、医療現場の課題解決につながる有効な提案ができます。活躍の可能性は、未知の領域にも広がっています。
滋慶医療科学大学の学びの特徴
これからの医療は、AIやデータサイエンスの知識や技術が活きる時代。特に医療機器のスペシャリストである臨床工学技士がこれらを学ぶ意義は大きいと言えます。本学では、ユニークで発展的な学習を提供しています。
・人工知能
「人工知能概論」「知的財産概論」などの授業でAIやディープラーニングを基礎から学び、AI搭載の医療機器を使いこなすエンジニアを目指します。
・プログラミング
医療機器を適切に操作し管理するためには、機器に内蔵されているマイクロコンピューターについて理解する知識や技術を身につけることも大切です。本学では、情報処理やネットワークの原理・技術、プログラミングの基礎を学び、プログラミング実習などを通して実践力を身につけていきます。
・データサイエンス
「医療福祉とデータサイエンス」「多変量解析入門」などの授業を通して、データ処理・解析の枠組みや手法、統計学、データサイエンスの取り組み事例などを学びます。保健・医療・福祉のさまざまな分野で蓄積されているビックデータを利活用する技術を身につけることで、医療環境の最適化に貢献するとともに、新しい価値を創造するクリエイターとしても活躍できます。
【学びの特長】 https://www.juhs.ac.jp/academics/clinical_engineer/features/
医療に新たな価値を創造するエンジニア
か。臨床工学技士は、生命維持に関わる機器を操作・管理することから、「命のエンジニア」とも呼ばれています。またそれだけでなく、エンジニアリング技術を活かして新しい価値を生み出すこともできます。新しい職業なので認知度はまだ高くはありませんが、AIやロボットの進化に伴って、臨床工学技士の能力を活かせるフィールドはますます広がっていくでしょう。