心臓は全身に血液を送り出すポンプとして一日中、休むことなく働いています。
ところが、心臓の働きが損なわれるような心筋梗塞、心臓弁膜症や心筋症など様々な病気が原因で、十分な血液が滞って体に必要な酸素や栄養が足りなくなり、息切れやむくみが起こり、その症状がだんだん悪くなり、生命を縮めるような状態を「心不全」といいます。
お薬や手術をして治療をしますが、この症状があまり改善せず芳しくない状態を「重症心不全」といい、生活に支障をきたして命が危険な状態になった場合に、心臓の代わりに血液を全身に送り出す機械を使ってポンプ機能を肩代わりする「補助人工心臓」やドナーといわれる脳死となった提供者から心臓を提供していただき、弱った心臓の代わりに入れ替える「心臓移植」という治療を受けなければならなくなります。
心臓移植の適応があると承認された場合に、その多くの患者さんは移植までの橋渡しとして植込型補助人工心臓(iVAD)を装着されます。
iVADを装着すると重症心不全の患者様は退院して自宅で日常生活を送ることができるようになり、患者様によっては学校に通ったり、仕事に復帰されたりしています。
しかしながら、このiVADが動作不良になることがないように、ご家庭で患者様ご自身や介護者で装置を管理しなくてはなりません。
そのために、機械の取り扱い方法に習熟する必要があります。これを管理できるように患者様や介護者に行うトレーニングを医療機器の専門家である臨床工学技士が担当します。
iVADのトレーニングは、手術で機械を装着してから入院中に約2時間の講習を行って、その内容の理解度を評価するために筆記テストと実技テストを実施します。
そして、患者様と介護者はこのテストに合格するまで繰り返しトレーニングを実施することで、機械の取り扱いに習熟して在宅生活を送ってもらうことができるようになります。
現在、心臓移植のドナーが極めて少ないため、iVADの在宅生活は5年以上の長期になっているのが現状です。
さらに心臓移植を前提とすることなくiVADを植え込む治療(Destination therapy:DT治療)が2021年5月に保険償還されたので、さらにiVADを装着する患者様が増えてきています。
そこで、臨床工学技士は、患者様や介護者への継続的なトレーニング、在宅療養中のトラブル対応、必要機材の物品管理と提供や外来受診時の機械の動作チェックなどを長期に渡り患者様に寄り添って対応しています。
iVAD操作の知識を継続的に維持することはトレーニングだけでは限界があるため、社会的にも新たな取り組みが求められており、私たちは、さらなる安全性を求めて新たなシステムの構築と開発に取り組んでいます。
切迫する病気に対して、臨床工学技士が「いのちのエンジニア」として、医療の最前線で活躍できるように高度医療に対しても適切な知識と経験を得られるように滋慶医療科学大学では人材を育成するカリキュラムを設けています。
ぜひ、オープンキャンパスで本学の取り組みを体験してください。
吉田 靖
滋慶医療科学大学 教授
臨床工学技士/臨床検査技師/体外循環技術認定士/高気圧酸素治療専門技師/不整脈治療専門臨床工学技士